甘い生活

ビューティフル・ヒューマン・ライフ

福井という男について

福井は、彼女の部屋を追い出されて、途方に暮れてる俺に「うちに来いよ」と言ってくれた懐の深い友達だ。
そして、俺がなりたかった俺、の世界線を生きている男。
今回はそんな福井について書いていく。

福井は元々、中山という大学の友達のバンドメンバーで、大学2年の時に中山を通じて知り合った。
お互い童貞、彼女いない歴イコール年齢ということもあってすぐに意気投合した。

「イケてないし、なんか似てんな」とお互い思ってたのは確かだ。

しかし、そんな福井にはめちゃくちゃ可愛い彼女が出来た。

モテる奴が可愛い子と付き合ったり、金持ちが金にモノを言わせて美人と結婚しても別に羨ましくなかった。

福井が一番羨ましかった。

自分にとって1番身近な存在に思えてた福井が、自分が1番欲しかった「最高に可愛くて最高に好きな女の子と付き合う」という夢を叶えてたからだ。

福井は俺と同じように、イケメンでもないし、女の子と話すのも苦手だった。
でも、バンド活動という一つのことに打ち込んでいた。歌ってる時の福井はカッコよかった。

俺もこれだ、と思った。

大好きな真珠ちゃんを振り向かせるため、「カッコいい俺」であるためには、何か一つのことに打ち込まねば。
そう思って映画や演劇の役者活動をやってみたけど、結局は中途半端に終わってしまった。

福井は彼女と結婚するためにバンドを辞めて就職した。
俺にとっては、どんなに売れたバンドマンよりもよっぽどキラキラして見えた。

それからしばらく俺と福井は会うことがなかったけど、初めて会ってから五年ぐらい経って、阿佐ヶ谷で再開した。

福井はその後、五年付き合って同棲までして、結婚直前までいったその彼女と別れていた。
もう、見るからにボロボロだった。

別れた原因は、大雑把に言えば、お互い仕事が忙しかったことからのすれ違い、みたいな、まあよくある話だ。

あんなにキラキラして見えた福井が、また俺の所まで落ちてきたと思った。
残念だった。でも、色々やってうまくいかなかった俺からしてみれば「それみたことか」と思う気持ちもあった。

でも福井は中途半端な女に寄り道もしないし、風俗も行かなかった。

そんな福井に人生二人目の彼女ができた。
一人目の彼女を超える美人だった。
俺とも話が意気投合して、「なんで俺と先に出会わなかったんだ…」と思ったぐらいだ。

福井は俺とは全然違った。

バンドも彼女も仕事も全部本気だった。
ブレブレな俺とは違って、ど真ん中に一本筋が通っていた。

そばにいてよーくわかった。

女の話でしか例えられねえけど、経験人数100人より、最高に好きな女1人としかセックスしてない方が絶対にかっこいい。

彼女と別れて腐ってた俺だったけど、この3ヶ月間、福井に心の洗濯をしてもらった。

俺も新しい部屋がほぼ確定したから、また一からスタートして、福井を見習ってもっと真面目に生きていきたい。