甘い生活

ビューティフル・ヒューマン・ライフ

街のイメージは人で形作られる

8月の頭。編プロを辞めた俺は、阿佐ヶ谷のマンションを引き払って彼女の部屋に住むことになった。

でも、この代々木上原がどうも好きになれなかった。金持ちと、それを気取った風の人間しかいない。
近所のカフェのカフェに入れば、ババア達が「真のオーガニックなハチミツ」について話していたり、パーマかけた髭面の兄ちゃんがなんかよくわからん横文字を多用して意識高い系の話をしていたり、飲み屋に入ればジジイが「慶應を出た○○さんは云々」みたいな話をしていたり。
うんざりだった。

今回の話の本質はそこじゃないんだけど。

俺は橋本に住んでた頃、1時間半かけて、新宿から西武新宿線まで乗り換えて、下井草駅まで行ってた。
高校の先輩が住んでたからっていうのもあるけど、それは建前で、当時好きだったMちゃんが住んでたからだ。
下井草ははっきり言って何も無い街で、せいぜい駅前にマックと西友があるぐらい。でもMちゃんが住んでるってだけで、何の変哲も無い道すらキラキラ輝いて見えた。

Mちゃんを通じて、下井草も好きになっていた。

逆に考えると、俺は元カノのことが、本当は好きじゃなかったのかもしれない。

俺が代々木上原のことをなんとなく好きになれないと言うと、彼女は怒って「私の好きな街を悪く言うな。あと、なんとなく、じゃ伝わらない。具体的に言え」と言うので、「住んでる人が無理」と言うと「他の人は関係ないでしょ」とか言われた。

でもやっぱり、住んでる人の雰囲気っていうのは、その街の住み心地を決める要素としては、一番重要だと思う。

言い換えれば、街のイメージは、その街に住む人たちによって形作られる。

この前の十条の女の子もそうだ。
十条って街は気さくで安い飲み屋も沢山あって居心地は悪くないんだけど、住みたいとは到底思えない。これは、完全に女の子のイメージと重なる。

代々木上原は気取ってて、頭でっかちで、居心地が悪い街。
下井草は優しくて懐かしい街。

元カノとは何もかも、根本的に合わなかったんだろうなあ。

今住んでる阿佐ヶ谷は偶然にも下井草から近くて、とても住み心地がいい。
そう考えてみると、案外近くに理想の女の子が住んでるのかもしれない…
そんな夢想をしてしまう。