甘い生活

ビューティフル・ヒューマン・ライフ

糸井重里似のおっさんに宗教勧誘された話

当時浪人生だった俺は、コンビニのバイトをしていた。
入れ違いに抜けるおじさんに仕事を教えてもらった。おじさんは糸井重里に激似で、バイトを辞めた後でもわからないことがあったらいつでも聞いてくれ、と連絡先をくれた。なんていい人なんだろうと思った。

バイトに入ってしばらく経ったある日、そのおじさんからお茶しないかと誘われた。
友達いないんだろうな、と思って了承した。
近所のマックで雑談した。
1時間ほど話し、おじさんから誘われ、何も疑わずにドライブへ行った。

市内から2・30分離れたショッピングモールで車は止まった。
それまで普通の内容で話していたおじさんが突然、「ところで、今中国が日本を攻撃するためにミサイルを開発しているのを知っているかい?」と突拍子も無い話をし出した。

そこからはおじさんの独壇場だった。
「人間にはね、『幸せの種』があるんだよ。それを掴んだ人だけが幸せになれるんだ」
「俺の兄貴はね、幸せの種を掴んだよ。この前スポーツカーを買ったんだ。」

幸せならコンビニでバイトしてねえだろ、、という言葉を飲み込みつつ、俺はこの辺りで確信していた。これは、宗教勧誘だ。
しかし助手席と運転席のこの至近距離。ドアもロックされていて逃げられない。
背中に嫌な汗が流れる。

「ねえ、宗教って信じてる?」

「あ、いえ僕は、、神様とか信じてません。お金を集めるのも意味わからないし、宗教戦争で人が沢山死ぬし。それって本末転倒じゃないですか。神様なんていないと思います。」

「うちは違うんだよ!〜〜〜〜」

ラチがあかなかった。
俺はとりあえずトイレに行くふりをして外に出た。
親は電話に出ない。しばらくして祖母になんとか電話が繋がった。
「ばあちゃん?⚪︎⚪︎だけど、ちょっといま詳しく言えないんだけど、もし俺が15分位経っても連絡して来なかったら警察に連絡してくれない?ごめん、頼んだ」

その時点で10分以上経っていた。怪しまれると思って急いで電話を切り、車へ向かった。貴重品を入れたリュックを忘れていたのだ、、

戻るとすぐおじさんは「もう遅いし帰ろうか」と言った。こいつ感づいたな、、、と思った。帰る道中、おじさんの真横でバレないようにばあちゃんに安否を伝えた。

ほっと胸を撫で下ろしていたが、しばらくして
「最後に一回だけお祈りしていかないか?綺麗な女の人もいるよ」

もうめんどくせえから良いかな、、と思ったが断った。雑談しているときに女の子の話をしまくったが、そんなんに釣られるかよ舐めんなボケと強く思ったのを覚えている。

その後無事帰宅した。
もうそのおじさんが気持ち悪くなって二度と会いたくなかったのでバイトはすぐに辞めた。
あんなに信頼していた人だったのに。100だった信用が一気に0になったのは初めての経験で、しばらくの間えも言われぬ脱力感に襲われた。
また一つ人を疑うことを知った、10代の話

後日談として、その宗教を詳しく調べた結果、もし最後の「お祈り」とやらに一度でも参加したらアウト、その瞬間に入信したことになっていたらしい。パソコンの前でもう一度俺は嫌な汗をかいた。