甘い生活

ビューティフル・ヒューマン・ライフ

2008年12月25日、そして

時は高校2年生、俺はブスしかいない高校に見切りをつけた。
必死の努力の甲斐あって、どうにかこうにか可愛い子が多いと評判の女子高との合コンにこぎつけた。

日程は12月25日、クリスマス。最高でしかなかった。

駅で待ち合わせ。こちらのメンツは幹事で大親友でイケメンのM、お調子者のS、お洒落ボーイT、そして弄られキャラの俺というメンツ。

この日のために服を新調し、髪もワックスで立てていった。ナカノの5番使ってケープで固めて。この日のために楽天で香水まで注文した。
ホワイトムスクフォーメン。

向こうも4人。期待しかしてなかった。

やってきた女の子たちは俺の期待にたがわぬ粒ぞろい。

すらっとして大人っぽいAちゃん、ゆるふわっぽいBちゃん、幹事でブスのCちゃん。

そしてDちゃん。他の女の子たちとは一線を画していた。芸能人で言うと鳥居みゆき似。これぞ秋田美人といった感じ。

そこからカラオケとボーリングのある複合施設へ向かった。
俺が先導。焦って早歩きになってしまい、「はやーい」とか言われてしょっぱなから赤っ恥をかいた。

着いて、まずはボーリングをすることになった。俺は一時期それが原因で腱鞘炎になるほど(今も完治していない)ボーリングにハマっていて得意だった。ハイスコアは222。腕の見せ所だと思った。

最初はAちゃん、Cちゃん、俺、Tというメンツでチーム対抗戦。
盛り上がってるふりをしながら、横目でDちゃんとハイタッチをするSを羨んでいた。

メンバーチェンジで男女入れ替わり、BちゃんDちゃんたちと組んだ。ストライクやスペアを取れば流れでDちゃんの手に触れることができるのでかなり頑張った記憶がある。Dちゃんのいい匂いがふわっと漂ってきたのを書いていて思い出した。脳すごい。

その次はカラオケ。実はボーリングよりもカラオケに自信があった。
しかしSがかなり上手く、いいとこ中の上位の上手さの俺では太刀打ちできなかった。親友Mもバンドのボーカルだったのでこなれた感じで歌いこなす。上手さ云々の前になんというか、カッコいい。

俺なりに女子受けを研究してアルエを入れたのは覚えてる。十八番の名もなき詩も入れた。あとRADの有心論なんかも入れたりしたっけな・・・

そしてDちゃん。Dちゃんが群青日和を歌ったときの衝撃が忘れられない。
圧倒的に上手い。なんかこう、粘っこい絢香的な歌い方じゃなくて、miwaに色気をプラスしたような・・・
とにかく喰らった。
あれ以来、カラオケに行くと女の子が東京事変椎名林檎を選曲するのを期待してしまう。意外と居ないんだ、これが。

カラオケでは男と女が完全に分かれてしまったので、俺が席替えタイムを発動した。この日は行動力が尋常じゃなかった。

複合施設を出て、駅前のミスドに行った。今思うとなんて可愛らしいことをやってるんだろう。
居酒屋とかじゃなくてミスドだぜ。涙が出てくらあ。

ここで会話が盛り上がらず。お調子者のSがうまく場を場を回してくれることを期待していたのだが・・・

すがるような男性陣の視線が俺に集まる。

仕方なく自虐ネタに走った。スラスラ話せることと言ったらそれくらいしかない。

一年生の時に女の子に二度と連絡しないでくれと言われた時のことを話したら意外と盛り上がって、なんとか沈黙を打破することができた。
しかしピエロはピエロでしかなかったか。この辺は今も全く成長をしていない。

で、お開きの時間になった。男性陣がそのまま帰ろうとして、慌てて俺が止めて「連絡先交換しよう!」って言った。

お前ら何のための会だよ、アホがって。

俺はDちゃんが一番ダントツで可愛いと思っていたが、親友Mも好意を持っていたようだったので譲った。イケメンなので勝ち目がないと思ったし、Dちゃん以上にMが好きだったから。というと聞こえは良いが、要するに妥協だ。
今だったら間違い無くDちゃんまっしぐら。

この時の俺はとにかくなんでもいいから彼女が欲しかった。高2の時の俺は彼女の欲しさとそこから来る焦りが尋常じゃなかった。高2の今の時期を逃せばあっと言う間に高3受験期だ。作るなら今しかねえ。

ブスは嫌だし大人っぽい子もキツいと思ってゆるふわBちゃんに照準を絞った。

変にこじれてしまった今よりもこの時の俺の方がマシなのだろうか。ちゃんと身の丈を意識してるあたり。もうわかんねえよ。

そこからBちゃんとのメールのやり取りは毎日続いた。本当に楽しかった。お互いペットを飼っているという話になって、今度一緒に連れて散歩しようなんて話もした。電話もした。年が明けて最初に来たのはBちゃんのメールだった。毎日が輝いていた。

「ばあちゃん!俺彼女できっかもしんねえ!」なんてばあちゃんに話したし、鏡でチューの練習もした。

浮かれた俺は気づいたら一度しか会っていないのにも関わらず、1月中旬、電話で告白していた。両想いを確信していた。

Bちゃんの答えは「早くない?」だった。

窓を開けて夜空を見上げた。

しんしんと降る雪が俺の心に積もって、涙になって溶け出していった。いつもと変わらぬ風景が、そこにはあった。