甘い生活

ビューティフル・ヒューマン・ライフ

今までの人生で一番嫌いな人間、中1の担任T田の話

中学一年生の秋。
N川君の体育着が盗まれた。犯人は誰かわからず、担任T田の言令でクラス総出で探すことになった。一生懸命探した。
見つけたのは俺だった。教室の端にあるロッカーの中に突っ込まれていた。
N川君はありがとうと言ってくれたし、クラスは朗らかな雰囲気に包まれた。

昼休みの最中、肩を叩かれ、「話がある」と言われ階段の踊り場まで連れていかれた。

一言溜息をついたT田はこう言った。

「お前がやったのか?」

何のことかわからなかった。
「はい?」
「N川の体育着、盗んだのはお前じゃないのか?」
「え、なんでですか?」
「俺が探したときはあそこに無かったぞ」
「いや、俺じゃないですよ・・・意味が分からないんですけど」
「そうか、ならいいんだけどな」

会話はそれで終わった。釈然としない気持ちを抱えたまま。

季節は流れて2月頃。今度は体育の着替え室でまた別のクラスメイトのTシャツが無くなった。
なんかよくわかんねえけど馬鹿なことやってんなあとか思ってた。



俺はT田に「あすなろ室」に呼ばれた。いわゆる説教部屋だ。

放課後、少し皮の剥げているぼろぼろの茶色いソファーに、白いカーテンから漏れた、オレンジ色の落ちかかった陽の光が射している。

そこに「ボフッ」と大仰に座って、深く腰をかけて、腕組みをして、深い溜息をついて、俺を疑いの目で見据えるT田。

この光景を死ぬまで一生忘れない。

「〇〇、お前が犯人なんだろ?」

もう俺はブチ切れた。

「はっ???違いますよ、なんでですか?ていうかこの前も犯人じゃないのに犯人とか、わけわかんないすよ、何が楽しくてJのTシャツなんか盗まなきゃならないんですか?」

「Kがお前がやったと言ってたぞ。」

ハァ?????

Kとは学年1のバカ。5教科500点中30点のクソバカ。テストで「おさいふ」「なすび」とか意味不明な回答を連発するクソバカ野郎だ。

「とにかく俺じゃないんで!」

そのまま部屋から出てドアを力の限りに勢いよく閉めた。

帰り道、溶けかけの雪がまた寒さで凍ってしまった、中途半端な氷の塊を全て蹴り潰して帰った。
腹が立った。悔しかった。

家について即Kに電話をかけた。

「お前俺が犯人ってT田に言った?」
「いやゴメンなんかなんとなく嘘ついちゃった・・・」
「お前ふざけんなマジで殺すぞクソが適当こいてんじゃねーよボケ」
「ごめん・・・」
「まあもういいけどほんとわけわかんないから・・・」

訳が分からなかった・・・本当にただ嘘をつきたかっただけらしかった・・・

とりあえず学年1のバカの言うことを鵜呑みにして、俺の言うことを聞きもせず即座に犯人に仕立て上げようとしたT田に殺したいほどの憎しみがわき上がったので、どうにか復讐できないかと画策した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・教育委員会・・・!

中1の自分が話すと信憑性が薄まると思ったので、母親にこれまでのあらましを打ち明け、教育委員会に匿名で担任のT田のことを訴えてもらった。

次は学校に連絡だ。どうしても一度謝罪させないと気が済まなかった。

T田は狡猾な人間なので、直接話しても上手く立ち回られるだろうと危惧し、学年主任に頼んでT田に謝罪命令を出させようと考えた。

移動教室で皆が出払った後、T田は突然現れた。

「〇〇、体育着とTシャツの件は私が悪かった。すまない。」
「(なんだ素直に謝れるじゃん)ああ、もういいですよ・・・」
「でもお前の普段の行いが悪いから疑われるんだぞ」
「・・・・・」

俺は自分を含めてこいつ以上に根性の腐った人間を知らない。

その後T田はPTAで会議にかけられたらしい。他の生徒にも酷いことをしていたらしく、その母親がPTAの最中に怒りのあまり泣き出すほど盛り上がったという。

骨折を繰り返す生徒に「身障」と発言したのは流石最低最悪のクズと言ったところだ。


納得いかなかったのはその後の処遇。
とにかく目の前から消えてほしかったのだが、T田の代わりに学年主任が諸々の責任を取って飛ばされてしまった。

T田は俺が卒業するまで学校にいたので、会うたびに不快な気持ちになった。
あいさつ運動とかいうので先生が校門の前に3人くらい立っていてもあえて他の先生にもはっきりわかるようにT田だけシカトするようにしていた。

一つやったと言えるのは、俺が中2に上がって以降担任のクラスを任されることは無かったということ。自作のクラス会報を教師になった年から20年以上継続しているというのを自慢していたが、それを俺が途絶えさせたわけだ。ざまあ。

ああ、でもしょうもねえ娘のくだらねえ自慢話はまだ続けてるんだろうか

書いていて12年経った今でも怒りがこみ上げてくる。自分でも呆れてしまう。
でも心を歪められたのは確かだ。

表面的に嫌いだ、と思うやつは今までも何人かいたが、すれ違いとかちょっとしたことでそうなってしまった、という人が大半だ。
本当に心の底から大嫌いなのは今まで23年間生きてきてT田、ただ一人だ。