甘い生活

ビューティフル・ヒューマン・ライフ

高校一年生の時、好きだった女の子に「もう二度と関わらないで下さい」と言われた時の話

突然、クラスのお調子者のDに階段の踊り場まで来てくれと言われた。

踊り場まで行くと、ちょっとにやけたような、気まずいような変な顔でDが待っていた。

「Sがもうお前と二度と関わりたくないって。伝えてくれって頼まれたから。そんだけ。」

立ち尽くした。

何も感じないようにした。

いろんな奴に話すことで気を紛らわせた。

「あんな奴もういいよ」「大して可愛くないし」「なんで好きだったのかわかんねえ」

そうやって、強がるしかなかった。



春。高校に入学して、とにかく俺は可愛い女の子がいることに希望を託していた。
勉強もスポーツも中の下くらいの、何もかもが中途半端な高校。
とにかく可愛い彼女でも作って楽しくやっていこう、と画策していた。

どこのクラスにもパッと際立つような女の子はいなかった。

でもしばらくして高校生活に慣れ、周りの景色がはっきりしてきた頃、Sが気になり始めた。
Sはバカみたいに騒ぐ周りの女子とは違って落ち着いていて、白くて細くて、なんだかちょっと特別に見えた。

風呂場で「俺はSが好きなんじゃないか、、、いやこれは多分好きだろ!」なんて思いこんだ時のことを覚えている。

結局俺はSが好き、になった。

同じクラスなのに直接話すのが恥ずかしくて、当時流行っていたモバゲーからコンタクトを取った。
アドレスを聞き出し、メールを送った。

他愛もないメールのやり取りが続いていった。

友人に「俺Sが好きかもしれない、、」と言ったところクラス中の男子に瞬く間に広まり、
Sが近くにいると周りの男がにやにやしだすような、居心地の悪い状況が続いていった。

Sが近くにいればそっちの方に突き飛ばされる。「Sがいるぞ!」とコソコソ言われる。

本当に嫌だったが俺はただヘラヘラ笑うしか出来なかった。

いじられるのは嫌と同時に、クラスの溶け込む為に必要な技術でもあったから。
ただバカやってれば勝手に笑ってくれるなんて、どうしようもなく楽だったから。


夏に入ってからも特に進展はなく、たまにメールを送る位の関係が続いていった。


秋。友人たちとカラオケに行った時のこと。

そのカラオケ屋はSのバイトしているラーメン屋のすぐそばにあった。俺は嫌な予感がしていた。

当日、予感は的中しそのラーメン屋に行くことになった。心の底から嫌だったが、いじられキャラの俺が反論したところで何の意味も無かった。

店に入る。やっぱりSは働いていた。

店の中では結局注文を取るだけで終わってホッとしていたが、野球部で腕っぷしの強いKに「今から俺らの前でメールしろよ!」とけしかけられた。
拒否すれば肩パンだ。

「なんてメールすればいいかわからない。。」

「今日の俺の服装どうだった?とかでいいじゃんw送れよ!」

「ええ、、、」

「おい!送れよ」

「わかった、、」

「かっこよかったよ!」という悲しいお世辞メールが返って来た。

気を紛らわす為ににカラオケでめちゃくちゃ叫んだ。
なんでこんな気持ち悪いことしかできないんだって。


気まずくなってそれからしばらくメールは出来なかった。
もう一か八か告白でもしようかと考え始めていた。

Sと仲の良いNに頻繁に恋愛相談をしていた。何も進歩しない恋愛相談。

ある朝、Nから「Sに関して良い話がある」と言われた。

俺はしつこく聞いた。休み時間になる度にとにかくしつこく聞いた。でもNは笑っているだけで何も教えてくれない。
放課後になっても気になって聞いたら「うるせえお前しつこすぎんだよいい加減にしろ」と言われて、俺は黙った。

そういうことが何度も続いて、ついにNは口を割った。

「ごめん、今までの良いことっての、全部嘘なんだわ。」

「は?」

「いや、そうやってお前に期待持たせてたら面白いかなと思ってw」

「なんで?」

「最近Sに彼氏出来たんだよね・・・皆と話してさ、お前が玉砕するの見ようぜって話になってさw」

「・・・そういうことかよwもうSとかいいよ。」


俺は自分がいじられキャラであることを呪った。Nを呪った。周りの奴らを呪った。Sを諦めようと思った。


またしばらく時間が経った。

冬。

自由参加の勉強合宿に参加したら、Sもいた。

K、Nもいた。

夜の自由時間。相変わらずいじられていると、突然Kが俺の携帯を無理やり奪って、Nにパスした。

Nが俺の名を騙りSにメールを始めた。

俺はKに羽交い絞めにされていて身動きが取れなかった。

「今から俺の部屋で怖い話の会やるんだけど来ない?」

「そっかーでも怖いの苦手だからちょっとな、、、」

「俺の怖い話聞いてよ!怖すぎて俺に抱き付いちゃうかもよ?ww」

「えーでもほんと苦手なんだよね、、、」

「そこを何とか!マジで楽しませる!むしろ今から抱きにきてww」

「ごめん今からコンタクト外さないといけないからじゃあね!」

大体こんな感じだった。最後、メールを切る為にコンタクトの取り外しを理由にしてきた文章は印象深かったので、完璧に覚えている。

あとは巨乳が好きみたいなキモいメールを何通か送られていた。

どうにか弁解をしようと思っていたが、勉強合宿が終わった直後に携帯を失くしてしまった。

なんでこんな時にと本当に泣きそうになったがなんとか新しい携帯を入手し、合宿の時のメールは俺が送ったんじゃない、と弁解メールを慌てて送った。しかし

「ほんと?全部本人だと思ってた笑」と返って来た。


正月が明けて、Nから「今度は本当にいい話があるぞ」と言われた。
期待していなかったが、「Sが彼氏と別れたらしいぞ」と告げられて、もう少し頑張ってみようかなという気持ちになった。

もうそんな好きじゃないし、ダメでもともとだ、なんて考えて予防線張って。

Sに少しメールを送ってみた。反応は普通だった。


もう3学期も終わりに近い日の昼休み、Dに肩を叩かれた。


「ちょっと話あるから階段の踊り場まで来てよ」



今日の短歌

スピッツを聴いて魂研ぎ澄ます変われない俺抱きしめてくれ